◆[山形市]飯田・桜田東 春は待たない(2015平成27年4月22日撮影)

なんて青空。絹雲が気持ちよさそうに大空へ筋を引いている。

今日の目的は、坂巻川に掛かった鯉のぼりを撮ること。
とりあえずその前に、せっかくだから歩道橋に上り112号を眺めてみる。

若葉が空の青さに煌めいている。
それはそうと、どうやら鯉のぼりは無いようだ。
数日前にロケハンしたときは確かに鯉のぼりが坂巻川の上で泳いでいたのに。

鯉のぼりだけを楽しみに、この坂巻川へやってきたのに・・・。
落ち込んで河川敷に目を落とす。
黒い土の上は花びらでピンクの絨毯になっている。

自分の希望は無残にあっけなく散った。
散ったからには地面をうろつく花びらを撮るしかない。

「なして鯉のぼり無いの?」「こどもの日まであんのが普通だべ?」
若葉がニューッと出始めた枝に問いかけても答えはない。

「こだい空が青いんだ。撮るしかないべ」
鯉のぼりのことはいつまでも頭で尾を引いている。
しかし、来たからには何も撮らずに帰るわけにはいかない。

怯える花びらは、微風でも体を震わせる。
車輪はうつろな目を壁に向けている。

紫木蓮が大きな花びらで手招きしている。
近所の高校生には、その意図が伝わらない。

「こだい天気いいのによう。なしてぶら下がてらんなねんだずぅ」
箒とチリトリの意見が合う。
「こだい天気いいのによう。外さ出でドライブでもすっだいずねぇ」
今頃、そんな声があちこちの企業の内勤社員の口からこぼれている事だろう。

サンシュユが天に伸びる。
まるで青地に黄色のカーテンのようだ。

「あれぇ?銀杏の木なぐなたどれはぁ」
切り株の断面は、ただ天を仰ぎ白く光っている。
地元には地元の事情があるんだべなと、無理無理自分を納得させる。

すっかり風通しが良くなった大日神社。
こうして街の表情はいつの間にか変わっていく。

すきっ歯のようにガラスの一部が割れ落ちている。
初夏の新鮮な風が、隙間を見つけて暗がりに入り込んでくる。

塀に寄りかかるようにバイクが止めてある。
いったいバイクのミラーは何を見ているのだろうと思ったら、
事故の恐ろしさに目が釘付けだった。

あちこちで椿の花が終わろうとしている。
あっちからポタッ、こっちでもポタッ。
そんな場面が至るところで繰り広げられていることだろう。

八重桜は青空を舞い、初夏が来たことを告げている。

さっきのミラーといい、こっちのミラーといい、人知れず地元の光景を写し込むだけで、
自分の内面は見せようとしない。

初夏の街角はこれだから堪らない。
一歩足を進めるごとに光景が変わるし、突然菜の花の黄色が目に飛び込んでくる。

あの陰鬱な空と雪はどこへ消えた。
いまや花が舞い、甍が輝く初夏の趣。

「右上の鳥はツバメんねが?」
そんなことには答えてもくれず、花びらは早すぎる初夏を堪能している。

「いっつもより一週間は早いもなぁ」
桜もすっかり終わり、あっという間に夏に近いような日差しが降り注ぐ。

「こっだな地面さ近いどごで咲いでで、何がおもしゃいんだ?」
「このおっさん何ゆてんの?これがオラだの生きる道なんだじぇ」

絹雲は空の塵を箒で掃くようにして徐々に形を変える。

ジャバジャバと聞こえたので近寄ってみた用水路。
「どげろどげろ!邪魔だぁ!」
いよいよ水の活動期にはいったらしく、凄い勢いで弾け飛ぶ。

「主役は私だべ」「んねおらほだぁ」
空の青さに似合う主役は自分だと競い合うチューリップ。

初夏になり、花びらや鳥たちの声が街に彩りを添えている。
そして、選挙カーの拡声器の声は街に不快さをまき散らす。
拡声器でがなり立てる事が、一票に繋がるんだと本気で信じているのか、一度聞いてみたい。

山吹も空から降りかかるように枝を広げている。
みんな忘れずに冬を越えて咲いてくれたことに感謝したい。

パチッ!「まぶしぐさせでゴメン。」
一瞬のストロボに虚を突かれ、花びらたちはぽかんとしていたが、
やがて何事も無かったようにミツバチにくすぐられている。

「オラだば下から撮ってけるなて珍しい人だなぁ」
それほどまでムスカリは小さい花。
「たまには上から目線だげより、いがんべ」

「指ば入れっどバグッとくつがれそうだずねぇ」
それほどまでにチューリップは花びらを全開にしている。

銀色のタネがまぶしい。
風に吹かれて旅立つ時を待っている道の端。
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