◆[山形市]鉄砲町・あずま町・南原町 雪の光禅寺横丁(2015平成27年1月18日撮影)

「落ぢったぐないぃ」
細いワイパーへ必死にしがみつき、これ以上下へ行くのをこらえている。

隣の体育館では青春の熱い声が溢れている。
その声は誰もいない中央高のグランドへ流れ込み、雪になじんで消えてゆく。

「おお、バッティングマシンで練習しったがぁ」
寒さの中、ハウスの中で黙々と練習に励む、中央高野球部。

フェンスなんて仮の宿に過ぎない。
ジワジワ垂れ下がり、地面へ同化するのも時間の問題。

「今んどごは、しゃますさんなねほどでもないげんとなぁ」
山形市にしては、今のところは想定内の降り方にとどまっている雪。

綿帽子を身にまとい、冬の風物詩が街のあちこちに点在する。

なんだかんだ書いであっげんと、じっくり読んでいるのはしがみついた雪だけ。

光禅寺に足を踏み入れる。
粉雪舞う中で、寒気の中に伸びた枝は、春の準備を人知れず行っている。

「こっだい雪かぶてぇ。寒ぐないが?」
「雪かぶたほうが風ば防げっからいいのよぅ」
常緑樹の葉っぱは、青々とした色をしっかり保っている。

人々が桜並木を愛でるまで、まだ三ヶ月もある。
でも、今のうちに雪の並木を眺めておけば、あの桜の花はもっと綺麗に見えるに違いない。

お母さんと子供の歓声が寒気に混じる。
山形人には雪の中で育む親子愛がある。この絆は固い。

「春まで我慢すろよ」
「我慢もなにも、毎年当たり前のごどだがら」
草木たちは、寒さも生きていく上では想定内と割り切っている。

「自動でフロントの雪かきばしてけるんだが?」
「ほだな訳ないべ。主が忘っでっただげだ」
主のいぬ間に、雪かきは車のフロントに寝そべっている。

「うへっ、冷たい!」
公園に足をズボズボ踏み入れたら、ブーツの隙間に雪が入り込んできた。
我慢しながらブランコにのたうつ白蛇を撮る。
ほんの数秒後に白蛇は、耐えかねて地面へ落ちた。

「固っだい椅子だど、けっつ痛くて座りづらいどもて、雪のクッションば敷いだのよ」
「んだげんと、誰も座てけねのよね。なしてだべ?」
椅子のおもてなしは空回り。

「キリンさん、何考えっだの?」
「頭の雪が邪魔だて思っただげ」
象は雪に目隠しされているのに、キリンの気配を感じて声を掛ける。

「今日は成人式だっけがぁ?」
「オラだただのガスボンベだよ」
「んだて、首さふわふわで真っ白な襟巻き巻いっだどれ」

山形市内は網の目のように街中を堰が流れている。
でも、よく見ると雪のために流れが止まっていた。

「雀ってあんまり見掛げねぐなたずねぇ」と思いつつ、
何の鳥か知らないが、鉄パイプが冷たくないのだろうかと心配になる。

ちっちゃな輪っかは、天から授かった子供のように、小指ほどの雪を大切に抱いている。

六中の勇姿が見えてきた。
「勇姿て、ただ校舎が建っているだげだべ」
「六中の校舎って、なんだが大人ーッて感じがすんのよね」

「押されるだげの人生なてつまらねぐないが?」
「自分が押さっで役立つんだごんたら、それでいいんだっす」
押しボタンは人間より遙かに達観している。

「俺の気持分がらねべ・・・」
ローラーは壁により掛かり、ブツブツ呟いている。
見ようによっては孤独だげんと、でも格好付けでっからナルシストなんだがも。

六中の体育館から、熱気と若い歓声が微かにたどり着く。
熊野神社のスギ葉は雪に埋もれながら、その声を聞いて安心して眠りにつく。

「バカみたいに口開けでぇ」
「アホみだいにカメラぶら下げでぇ」
反発する気力だけはあるようだ。

耐えかねた雪が木立の間からザザーッと落ちる。
再び何事も無かったかのように静寂が訪れる。

太い幹の下から体を反らせて上を見る。
おお、なんとこの真冬に小さな若葉がツンツン伸びているじゃないか。

「退屈だずねぇ」
「んだずねぇ」
石碑たちは口数も少ない。
「後ろの窓なんとがならねんだがずねぇ」
しばらくして、思い出したように一体の石碑が呟いた。

千歳山の勇姿を遮るように看板が乱立する通り。
文翔館は景観保護のために、マンションの高さが制限された。
千歳山の景観保護は誰がする?

看板、看板、看板。どこまで行っても看板。
自己主張しか知らない看板は、今風にいえばかなり痛い。
誰もが見てくれていると信じて疑わない、その気持が切なくなってくる。
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