◆[山形市]愛宕神社 夕暮れの神事(2014平成26年7月24日撮影)

暑っづい日本列島。
その例外に漏れず、山形も西日が厳しいジャバの前。

愛宕山の濃い緑の手前に、白い幟がツンツンと立つお祭り日。

「ぎっついぃ」
「今日はしょうがないっだべ」
例大祭の幟が倒れないよう、ロープでぎっつぐ体を結ばれる。

盃山へ上る道の脇を、石段がしばらく続く。
そろそろやんだぐなたなぁと思う頃、本殿が杉木立の間に見えてくる。

「まぶしい〜」
杉木立の間から漏れる西日をまともに浴びて、お守りは熱を帯びて浮かび上がる。

酒と電灯と蚊取り線香。
ああ、日本の夏。

鎮火祭という神事が始まる。
いったいどうなるのか・・・火の神だからこその神事らしい。

「ちゃんと残しておがんなねだなねぇ」
世話人の方は記録撮りに、参道のローソク立てに大忙し。

メラメラ燃え上がる炎、朗々と響く祝詞。

祝詞の響く森に煙が満ち、西日に照らされて放射状に光の帯ができる。
ご神木の見守る中、熱い大気が荘厳な雰囲気をまとい始める。

「こだなもんで、なんたい」
「いがんべ」
世話人の方々は、相変わらず額に汗して忙しい。

宮司さんの腹の底からの声が森に響き渡り、御神刀を振る。
この火伏せの神事により、火難は消滅する。

杉木立の隙間を鱗雲が流れてゆく。

「ちぇっと休んでよぅ、腹ごしらえさんなねべぇ」
「まんず暑くて体さこだえんもなぁ」

神主さんの履く靴が本殿脇でテロテロに光って、周りの緑を写し込んでいる。

「ボンボンくべで、暑いのば追い払わんなね」
古札焼納祭が始まった。

目の前でお札を燃やしていようが、子供は自分たちの世界を頑なに守る。

本殿を囲む木立は、例大祭の成り行きを静かに見守る。

「神社ずぁ、ゴミ一つ無く綺麗にしておがんなねま」
参拝客の賑やかな声の中、総代の方々は暇なしに動きまわる。

「見でみろほれ。お姉さんの舞がきれいだべぇ」
笙(しょう)の音色に合わせ、本殿では華麗な舞が披露される。

「やんだぐなたはぁ、なにしたらいいがわがんねぇ」
お祭りは大人の世界だけのものじゃない。
子供はやんだぐなたといいつつ、この雰囲気を体で覚えてゆく。

徐々に辺りへ薄墨のような闇が忍び寄ってきて、反比例するように電球の明かりが目立ち始める。

「すげぇ、三等賞だぁ」
少女はうれしさをパッと顔に表し、三等賞の花火をぎっつぐ握る。

大人の世界の宴と、子供の世界のつきあいが、同じ境内内で繰り広げられる。

「ハァハァッ、一等賞!」
ろうそくの灯りの中を、息を切らして登り切る。

「火ば扱う祭りだがらよ、ほんてん気ぃつけらんなねんだぁ」
汗を拭き拭き、参道のろうそくを注意深く整える。

炎は小さな生を得たように、宵闇の中でチロチロと揺れる。

「暗いがらて、歩ぐの気をつけろよぉ」
ろうそくと電球の明かりを頼りに、人々は三々五々参道を登ってくる。

闇が支配しようとする参道をは幽玄の世界へ変わりつつある。
なんと夕涼みにぴったりなお祭りなんだろう。

いよいよ辺りは暗闇が支配し始め、爆ぜる音と火の粉が黒い森に響き渡る。

宴は延々と続き、小白川町内会の親睦が深められる。

山形市でこんなにすばらしい参道のローソクを初めて見た。
その長さは二百メートルくらいはあるだろうか。
これだけの規模のお祭りを知らなかった自分は、山形の奥深さを思い知ることになる。

参道を降りて麓の鳥居に近づいてきた。
私が観光関係の仕事をしていたら、是非ともPRしたい祭りだと強く思った。
失礼ながら、何故これほどすばらしい祭りの知名度が低いのだろう。
不思議でしょうがないと思いつつ帰途につく。
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