◆[山形市]木の実町・旅篭町 変貌途上の栄町通り(2014平成26年6月28日撮影)

梅雨の晴れ間から、グランドへ日差しがこぼれ落ちる。
子供たちの笑顔が一層輝く。
子供たちの心のアイドリングはとっくに終わり、アクセルを踏み続けて回転数を上げている。

街の至る所に梅雨を知らせる花びらが存在感を示す。
たとえそこが車の排気ガスが頻繁に舞う道路沿いだろうと。

一小の裏手に回れば、そこにはいきなり生活臭が細い道に漂っている。

道路にはみ出したフェンス内には、夏を我が物顔で謳歌する立葵。

木の実町は山形市街のど真ん中。
それなのに昔ながらの小路が細々と伸び、住宅が身を寄せ合っている。

ビルや家並みの影になり、日も差さない一角にだって花は咲く。
自転車の青年は爽やかな風を巻き起こして走り去る。

「オラだは季節の申し子っだなぁ」
紫陽花は陽気に梅雨を謳歌する。
雨に濡れて剥がれないようにガムテープで押さえられたモンテのポスターは、虎視眈々と上位を狙う。

木の実町は街のど真ん中にしては落ち着いた街。
開発に次ぐ開発で疲弊した光景をさらす郊外とはまったく趣が違う。
それでも空き地はぽつりぽつりとマンションに変わってゆく。

「みんなで参加、べにばな国体!」
もう心の底にしか残っていないステッカーが、いまだに現役で貼られている。

花は萎み、キュウリの身は指の大きさを超えている。
こんな街中でも野菜の成長を目の当たりに出来るうれしさ。

「早ぐ青空が広がっどいいねぇ」
「青空なて広がる隙間がないじゃあ」
かつては広く見えた青空も、マンションの影に追いやられる。

真っ赤な花びらに足が自然に止まる。
交通教室で教え込まれた「赤は止まれ」を体が覚えてしまっているようだ。

梅雨の合間にキツい日差しが街をひと舐めしていく。
特にソフトクリームは念入りに舐められていったようだ。

ビルの隙間にも風は吹く。
その証拠に風車はときおり思い出したようにカラカラと乾いた音を立てている。

「山形の並木道の中でも、こごは一番有名だべなぁ」
桜の樹間から光が歩道に落ち、人々はいつもよりゆっくりと影を踏みながら歩いて行く。

「なしてこだい勢いいいんだべ?」
「腹さ溜まったものが一気に出てきたのんねの?」
「要するにずっと我慢しったっけていうごどが?」
噴水はいいとして、やっぱり人間はすこしずつガス抜きが必要だ。

熱しきった大気を切り裂くように、噴水は空を飛ぶ。

行く末を考えているのかいないのか、アメンボは水面にちょこんと乗っかり、ただ波間を漂っている。

山形には神社やお寺さんが多いからか、こうした都市公園は少なく感じる。
昔は都市公園がなくても神社やお寺さんの緑が、人々を癒やす役割をしていたんだろうな。

女性とは思えない力強さが全身から発散されている。
空の雲を自在に操ったり、太陽に立ち向かったりするように。

自然に足が向く木陰。
汗を拭きつつ、白っぽく広がる街並みを漫然と眺める。

「ここがどこなんだが、山形ば離っだ人は一瞬分がらねべなぁ」
今まさに、栄町通りは道路拡幅のため変貌を遂げようとしている。

「三の丸の発掘調査だど。三の丸てどさあるんだっけ?」
日常生活ではほとんど気にしない三の丸跡が、実は山形市内の至る所に隠れている。

旅篭町四辻から南を見る。
今はここを境として北側が道路拡幅済みで、南側がこれから大きく変貌を遂げるはず。

建物が無くなって、始めて分かる空の広さ。

「ほれ、早ぐちゃっちゃどあべ」
通路の向こうを人々が足早に歩き去る。

「あれ?なんだがぽっかり空間が空いたような気がする」
「んだっだべ、前はこごさ大沼の立体駐車場があっけべ」
歴史は空の広さをどんどん変えていく。

ついこの間建ったと思っていた駐車場も、こんなに年月が経っていたんだな。
覆い尽くそうとする蔦の勢いに、永い年月を感じる。

蔦は行き場を失い、駐車場の壁から階段にまで触手を伸ばしている。
整地された大沼の駐車場跡は、その数十年の歴史を忘れたかのように黙っている。

もしかしたら、このレトロでモダンな建物も消えるのかも知れない。
その気持が膨らみ、撮るなら今でしょと指がシャッターを強く押す。

ひとまず撮影を終え、一小に行ってみる。
ここまなび館は、いっつも何かイベントをやっている。
昭和の初めに勧業博覧会という全国規模のイベントが開催された一小。
そのDNAが受け継がれ、まなび館として復活したといえなくもない。

「みんな着飾て歌ったり踊ったりしったりゃ」
その華やかさがすぐ目の前にあるのに、少年は自分と遠く離れた存在と感じる。
やがて少年は、冷たい石階段の感触が尻に伝わってきたのか、どこかへすっと走り去った。
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