◆[山形市]第三回 日本一さくらんぼ祭り(2014平成26年6月21日撮影)

「なんだが今日は騒がしいもなぁ」
文翔館の庭で、フサフサした触覚が空気を察知するトモエソウ。

「腹ごしらえもしたし、そろそろ行ってみっか」
「んだずねぇ、せっかぐのお祭りだものなぁ」
紫陽花は花弁をそれとなく会話の方に向けている。

「今年はイベント三昧だずねぇ」
「この間の六魂祭に引き続き、この賑わいだもの」

「こごで少し涼んでいぐべはぁ」
「若い人さは付いていがんねずぁ」
若々しい音楽が文翔館の階段を伝って流れ込む。

「あれ?おしんの女優さんがテレビの撮影しったどれ」
「こだなくそ暑いのに女優さんは涼しい顔さんなねくて大変だずねぇ」
涼しげなカーテンの外はギラギラ太陽が我が物顔。

「何の撮影なんだっす?」
「今テレビ中継しったんだっす」
お父さんはタオルを首に巻いて、暑い中家族のためにガンバル。

「なして箸でサクランボばたががんなねのや?」
「ほだごど聞いだごどないじぇ。手で掴むはぁ」
箸の正しい使い方を覚えるためには、サクランボを挟むのが持ってこい。

掴まれ損ねたサクランボは、終点のザルで怯るように寄り添っている。

「午前中は凄い人だかりだっけのよぅ」
サクランボは何故自分が流されているのかも分からずに、流れに翻弄されている。

「楽天の一反木綿だが?」
薄〜い等身大の選手が、人間は薄っぺらくなってだめだぞと教えている。

「おっ、いいスイングだぁ!」
この言葉をあと何十回いわなければならないのか。
この子の後ろには行列が長々と出来ている。

今年のさくらんぼ祭りはダンス三昧。
同じ山形人なら踊らにゃ損々といいたくなるほど。

「なしてこだいじょんだぐ踊るいんだずねぇ」
「そりゃダンスが好きだし練習してっからっだな」
私は出過ぎた腹を撫で、自分には無理と撮った後に下を向く。

「ギャーッ!坂ばずるずる落ぢでいぐーッ!」
そんな風に見えなくもない決めポーズ。

「平日はみんなどごさ隠っでるんだべねぇ」
「んだずぅ。いづでもこいに賑やがだどいいんだげんとぉ」
イベントでしか人を呼べないほど、山形は魅力がないのか。

「見えねず、どげでけろ〜」
赤ちゃんの丸っこい足が、前に立ちはだかる女の子たちに訴える。

「こだいサクランボが並んでんのに、誰も見向きもすねりゃあ」
「皆、ゆるキャラとダンスに夢中なんだも、しょうないっだず」

県知事はサクランボのかぶり物で大ブレイクしたけれど、なんじゃこりゃ。
せめて風船にマジックで顔を描いてくれ。これじゃ無表情ののっぺらぼう。

サクランボは艶々の肌を露出しているのに、人々はゆるキャラの前に群がっている。

子供たちの目の輝きが違う。
だから、着ぐるみの中の人は、汗だくで子供の夢を壊さないようにする。

アスファルトの上がフライパンのように暑いから踊っているわけじゃない。
遂にダンスが街に飛び出したんだ。

「秋葉原から来たんだが?」
「おしょうしなー、米沢だごでぇ」
黒いアスファルトの上で、花びらが舞うようにダンスは続く。

「こら!むしり取んなよ〜」
「体が雪でできっだど思たら違うんだどれ〜」
子供たちは樹氷が暖かいと知って、いたずらを仕掛けてくる。

「交番の前さ咲ぐなて、たいしたもんだ」
パトカーが見張りながら呟く。
立葵は素知らぬふりで、交番前のわずかな隙間に堂々と咲いてみせる。

「あたしもあいにして踊っだい」
「んだら頑張て練習さんなねっだな」
ちゃんころまいをしてもらい、特等席からダンスを見つめる。

「近頃の子供だは音感がいいんだずねぇ」
若い観客は一緒にリズムをとるけれど、としょりの観客はリズムの波間に呑まれ、溺れたように体を揺する。

溌剌という言葉を本気で発したくなる文翔館前ステージ。
若さを内に隠さず、全身から発してくる迫力。

「みんな東北出身てゆうのもいいずねぇ」
「ほいに聞ぐど益々応援すっだぐなんもな」
笑顔がまぶしすぎて、恥ずかしげに視線を逸らすおじさんカメラマン。

「おぅ!歌舞伎の連獅子が!」
こんな激しいダンスも計算のうちなんだろうが、観客はその一瞬に息を飲む。

大晦日は紅白歌合戦が終わると、午後11時45分に突然しんしんと雪の降る神社にテレビの画面が切り替わる。
このギャップと同じように、楽天ガールズの激しいダンスから、動きのない画面へ切り替えてみる。

葉擦れの音に混じって、木漏れ日がチロチロと舞う文翔館脇。

「ほろげる!」
女の子は堰へドブンと・・・入るはずがない。
下は玉砂利の枯川でした。

「文翔館の正面で何がおもしゃいイベントしったみだいだげんと・・・、
やっぱスケボーの方がもっとおもしゃい」
「ほんでいいのよ。みんな同じ事だげばおもしゃいてなたら、なんだか気持ぢ悪れもの」
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