◆[山形市]霞城公園 魅入られた人々(2014平成26年4月18日撮影)

薄く張った膜のような雲が少しずつ竜山へ流れてゆく。
人々は霞城公園へ三々五々流れてゆく。

暮れ始めた公園の花びらに、明るい声が絡みつき花びらを揺らす。

「毎年のごどだげんと、なしてオラだば撮っだいんだず」
「去り際の綺麗なものには日本人は弱いのっだず」
撮られ慣れた花びらたちの囁き声が聞こえてきそう。

ベンチに座り、別になんという話をしているわけでも無さそうだ。
人々は桜の近くで世間話をするという事に意味があると体で感じている。

「ドエーッ!くらえー!」
「娘なんだがらもうちょっとおしとやかにぃ」
スカートを翻し、娘は女を忘れてボールを投げる。

「引っ張んなずぅ。こちょびたいがらぁ」
垂れ下がる枝の花びらは、本能的に触れてみたくなる。

「ちぇっと寒いげんと、満開だもの見らんなねべぇ」
「玉コン食しぇっごんたら、見でもいい」
「食しぇっから心配すんなぁ」
親子が通り過ぎる脇には本丸の堀。いつになったら湛水されるのか待ち遠しい。

「どだなアングルがいいがどもてよぅ」
「いいがら早ぐ撮れず。石のベンチでケッツがしもやげなるはぁ」
夕方になり、ヒンヤリした空気が霞城公園を覆い始めた。

「いづのこめが門も出来だんだどれ」
「天守閣は元々無いっけし、あど何するんだべ?」
とにかく早く湛水して、鯉でも泳がせて欲しい。

桜の影にカップルあり。

「撮ってけっからこっち向げ」
「撮ってけるて、なして下さいんのに上から目線なのや?」
子供は上から目線で父親に撮らせてやる。

「なえだて、みんな出店の方さ引っ張らっで行ぐじゃあ」
花びらは微かに漂ってくる玉コンの醤油の匂いに嫉妬する。

「山形人の体の半分は玉コンでできている。」
「あど半分は?」
「決まてっべず、里芋っだな。名言だべ?」
決して名言ではない。ただ事実をそのまま言葉にしているだけじゃないか。

「こいなどごで見っど、なして旨そうに見えるんだべなぁ」
腹がグゥと鳴り、カメラを持つ手から力が抜ける。

「山形県民はサクランボのかぶり物をかぶりましょうて、知事が決めだったんねが?」
「戦時中の防空頭巾じゃあるまいし、ほだい誰も彼も被らねべぇ」
「ワシは兜を被っておるぞ・・・」
遠くで最上義光が苦虫を噛み潰している。

「大人になったら、何になっだい?」
「新幹線の運転手」
「人の造ったレールの上ば歩ぐだいのが?」
「その考えおかしいべぇ」
遠ざかる新幹線を親子がじいっと見つめている。

霞城公園上空はのっぺりとした雲に覆われる。
電車は桜を見る乗客のために、速度を落としてゆっくりと走りゆく。

お堀の水面を覗き込む花びらは、自分の姿にうっとりとしているようだ。

「いやー、くたびっだぁ。桜のテレビ中継も楽んね」
お茶の間へ桜の様子をお届けし、カメラマンは満足げに後片付けに入る。

「なしてこだい綺麗なんだべ」
誰しもがうっとりして時間を忘れる光景が目の前に広がる。

「石段が目の前さあるんだも、登れと言わんばかりだずね」
なんだかんだ言いながらも、ついつい登って土手に吸い込まれてゆく人々。

ヒンヤリした空気に花びらは微かに揺れ、人々は襟を立てつつ桜の色香を堪能する。

ライトに照らされた花びらは、カメラに向かってポーズをとるでもなく、
自然体で揺れている。

灯りに揺れる花びらは可憐だけれど、
まだ芽吹かないケヤキは空へ不気味に枝を広げる。

空を覆う桜。
そういえば霞城セントラルからはどんな風に見えるのだろう。

人々は桜に魅入られ、南門からもどんどん人が押し寄せる。

冬の間に閉じ込めていたいろんな思いを発散するように、
山形人は満開とともに霞城公園へ繰り出してくる。

なにやら大気が冷たくなるにつれ、公園内は幽玄の世界へと変わりつつある。

「撮っべ、撮っべぇ。集まれぇ」
花の美しさにも、目の前の若さにも嫉妬するぅ。
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