◆[山形市]中野目[天童市]寺津 春の産声かしましい(2014平成26年4月9日撮影)

「ほっだな、忙しすぎでカメラさポーズとってる暇なの無いもな」
なしてこだな平日にのんびり写真撮りなの出来るんだがという冷たい視線も、陽光に溶けて無くなる。

サンシュユが咲き誇る。
前回も書いたが、何故春一番に咲くのは黄色い花ばかり?(福寿草・水仙・マンサクなど)

いまだにコブシと木蓮の違いさえ分からぬ植物ド素人。
ま、いいじゃないかと真っ白い花びらに声を掛け、果樹地帯をゆっくり歩む。

「年季入ったんねが?」
「触んなよ、壊れっから」
かろうじて形を保つタイヤホイルは、息も絶え絶えに陽光を吸い込んでいる。

「オマエ運動不足で、ほだんどごさ飛び乗らんねべ?」
猫は余計なお世話だと言わんばかりに、スイッとジャンプして石垣の影に消えた。

ゆったり構える家並みの隙間へ、陽光は思う存分降り注ぐ。

次から次へと芽吹く草花は、その芽の部分が光を溜め込んで、電球のようにポッポッと灯っているようだ。

中野目の集落。といってもピンと来ない方も多いかも知れない。
この地は、なんと山形市の最北端、中山町や天童市と接している。

須川に掛かる須川水管橋。
朝日連峰や月山、葉山を遠景にして空を突く。

土手には土筆がワサワサ生えている。
春の喜びが体中に溜まり、グングン空へ伸びている。

真っ青な空へ真っ赤な看板。
このコントラストの下で、月山と葉山が泣き別れ。

「だるまさんが転んだ」
振り向くとテトラポットの大群が、少しばかり近づいてきたようだ。

「桜咲いっだら最高だべなぁ」
蕾を見ながらそう思う、寺津沼周辺の綺麗に整備された公園。

「おいおい、前回東沢での大失態を忘れたのか?」
心配する心の声が聞こえる。
後ろから誰かに押されないだろうかとビクつきながら、水面すれすれにカメラを構える。

「こだい立派な東屋があるんだどれ」
天童市民には知れ渡っていても、山形市民の間では知名度が低いようだ。
ここは言い換えれば、隠された宝石箱のような場所。

「何釣れるんだっす?」
「海で釣れるもの以外はなんでも釣れるっだなぁ、あっはっはぁ」
このおじさん、なかなか面白いことを言う。

釣り人にとっては、背中に光を浴びながらの時間の流れが最高なんだべなぁ。

自然の力は面白い地形を形造る。
「人造湖なのんねんだじぇ。三日月湖なんだじぇ」
「わがんね?蛇行した須川の一部が地形の変化で取り残されて、そのまま沼になってしまった所っだなぁ」

なんでもないような光景だけど、ヌメッとした水の流れに湿地帯の面影を見いだす。

「カーメーハーメーハーッ!」
「決してほだなごどゆてねがら」
文政年間に大関まで登り詰めた、寺津の英雄「源氏山吉太夫力士」。

凄い指力を感じる。こんな手でガッシと捕まれたらたまったもんじゃない。
江戸時代にもかかわらず身長は180センチあったというしなぁ。

紅梅は香気を放ちながら、暖かく緩んだ大気を突いている。

「ほれ、もう少しだ頑張れ」
思わず声を掛けたくなるつぼみの膨らみ。

椿の花は花びらがハラハラと散るのではなく、そのままボタッと落ちる。
それを潔いといっていいのかは分からないが、その落ち方から病院へお見舞いに持って行くのはダメなんだ。

水仙は水面へ一直線に狙いを付けて、今まさに咲こうとウズウズしている。

「ほごの植木鉢じゃまだずねぇ」
なんだかブツブツいいながら、ミニ水仙は一足早く咲いている。

「おっと危ない。また落ぢっけはぁ」
「んだて、太陽の光が水面で揺らめいで誘うんだもの」

うめき声を発しながら、水面でのたうつ。
もっと生きたかったと、この世に未練を残しながら。

「エイリアンが孵化するみだいだんねが?」
「失礼だずね。もうちょっとしたら見事な葉っぱが空さ広がるんだがら」
寺津沼の周辺は、命が次々と芽吹き膨らんでいる。

頭をピンと立て、どろりとした沼の水面を見つめている亀。
鉄で出来た置物かと思ったが、どうやら生きているらしい。
それを確かめるために斜面を降りるのは止しておこう。東沢の惨劇が脳裏をよぎる。

「ちょっと突っ込んでもいいが?」
「だいたいなしてウサギと熊なの?熊自体がいたるところで出没注意ていわっでっべよ」
「1000万円ていう金額はどういう試算なのや?」
いちいち看板にケチを付ける自分の性にケチを付けたくなる。

「何しったんだっす?」
「あ?何?周りじゅう春の産声がかすますくて、おだぐの声が聞こえねっけ」
両足の間に顔を埋めて、おばちゃんは春の陽気に包まれる。
TOP