◆[山形市]五日町・上町・双葉町 春霞に包まれて(2014平成26年3月28日撮影)

「寒んむい冬ば耐えだどもたら、なんだが空気が粉っぽいずねぇ」
空気が久しぶりに乾燥して、顔の泥がカチャカチャになってくる。

「しゃねこめちゃんとおがてんのよ」
紫陽花はバリバリの固い枝を空に伸ばして、力強く芽吹いてる。

「どさ隠っでんの?ちゃっちゃど出でこい〜」
隠れているのはおそらく逃げ遅れた冬に違いない。

「なして私だは、こだい可憐なのに名前がイヌノフグリなんだずねぇ」
「近頃の子供のキラキラネームよりましだべ。ただの流行廃りんねくて、昔っからの名前なんだがら」
どうもイヌノフグリは納得できずにレンズを覗き込んでくる。

「頼むがらよぅ、不審者てやめでけろず」
不審者とは、その土地であまり見掛けない、挙動不審な、カメラを持った中年男性をいう。
「えー!まさにオレだどれ〜。お地蔵さん、なとがゆてぇ」

「キン〇の農薬て、〇の部分なんだべなぁ」
トランプのキングの顔を見てわかった。
街は春の大気とクイズが溢れている。

「そろそろ春の服出さんなねねぇ」
「んだぁ今日なの暖かくてぇ」
冬服が並んで信号機をゆったりと渡っていく。

「こごば通るたび気になってだっけのよね」
石材屋さんに黙ってそっと撫でてみた。
ミッキーマウスは素知らぬふりして太陽の方を見つめている。

「勢至堂て午年生まれの守り神なんだがしたぁ」
家族や親戚で誰が午年だったか、まぶしい陽気の中でしばらく考えてみる。

「みんなでなかよく・・・なて、当たり前のごど、いづまでゆてんのや?」
「錆びでボロボロなるまでっだな」
すでに錆はかなり進み、それでも未だになかよく遊ぶ光景ばかりではない。

「マッチなの久しぶりで見だぁ」
「100円ライターなの味気ないべしたぁ」
「学生の頃は喫茶店のマッチば集めんのが流行たっけげんとなぁ」
今は昔。

「オマエ年なんぼだぁ?」
「体の年輪ば数えでみろ。んだど分がっから」
樹木の場合はそれで分かるだろうが、人間の場合は中性脂肪や血圧や尿酸値で計るといいのだろうか。

平日の昼間、表通りに人影は少ない。
裏へ回れば、日だまりが大人しく揺らめいている。

「だいたいよ、なしてサラダスティックとバドミントンのコルクなのや?」
箒が問いかける。
「誰が境内でバドミントンしながらサラダスティックば食ったんだっけべ」
チリトリは感心なさげに答える。

ポツポツ空き地が目立ってきた旧街道沿い。
そんな中でこんな店を見つけると何故かホッとする。

去年の同じ時期にも、この五日町踏切界隈を撮影した。
あの椅子の二個の石は、一年経つのに一ミリも動いていない。

駅南アンダーが出来て、交通量が少しは減ったかも知れない五日町踏切。
雨樋は春の空気で乾ききり、減った人並みをじっと見つめながら、退屈という言葉を飲み込んでいる。

新幹線の機械音があたりの空気を震わす。
過ぎ去った後には、何事も無かったかのように枯れ枝と静寂が残される。

「オマエもしかして山形駅さ最も近いフキノトウんねが?」
五日町は駅のすぐ近く。都会なら考えられないような所にもフキノトウが生える山形はやっぱり田舎?

光り物にはついつい近づいて撮ってしまう。
すぐ近くではお母さんと子供がなにやら会話しながら滑り台を楽しんでいる。

街並みの向こうを見渡しても山並みが霞んで見えない。
春らしいといえばそれまでだが、こだい霞んでいると黄砂なのかPM2.5なのかと心配してしまう。

トタンは錆びる度に張り替えられているらしい。
その都度樹木の影は、新しい布団へ寝転ぶように枝を這わせている。

双葉公園の樹木にまだ緑の葉はない。
それでもこの暖かさに、胸が膨らむのを押さえられない。

「ないほだいごしゃいっだの?」
狐は歯を食いしばり、口角に怒りを込めている。

「散歩がっす?」
ハンドルに冬用のカバーを付けた自転車が声を掛けてくる、三の丸跡の双葉公園。

「ぽやぽやてマンサクが咲いっだりゃあ」
それにしても何故マンサク・福寿草・水仙と早春の花はみんな黄色い?

「こさ三の丸て書がったべ。何回教えだら分がんの」
いつの間にか双葉公園に出来ていた三の丸解説の看板。

「噴水もそろそろだべがなぁ?」
「ありゃ、噴水の先っぽさ、赤い蓋付きのペットボトルが置がったりゃ」
「早ぐ逃げねど、水流で吹っ飛ばされっからな」

公園のフェンスはかなりくたびれて錆が浮いている。
それでも青空が広がれば、痛めた節々をそっーと伸ばしてみたくなる。

水路の流れの音を聞き、春が来たと察した枝は、急速に蕾を膨らませる。

「オマエもしかして山形駅さ最も近い福寿草んねが?」
さっきはフキノトウに掛けた同じ言葉を、地面すれすれに屈んで福寿草へ掛ける。

集音器が音を集めるように、福寿草は光を花びらで集めている。

「誰っだがねぇ。こだんどごさ置いで」
ギッコンバッタンは困惑しながらも、せっかく近所の子供が載せてくれたのだからと、落とさないように気を遣う。
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