◆[山形市]津金沢 冬の殻にヒビ入る(2014平成26年2月24日撮影)

「いや〜、この天気ば待ってだずぅ。んだて、天気悪れどぎ田んぼの真ん中さポツンと立ってんの寂しいじぇ」
ポンプ小屋?が満面の笑みを浮かべ、隣の枝も「いがった。いがった」と壁をさすっている。

「これが春の足音てやづっだなねぇ」
雨樋を伝った雪解け水は、ポタポタチョロチョロと流れ落ち、地面で広がり煌めいている。

「やっぱり郊外さ来っど、一軒一軒の家がおっきいずねぇ」
「眺めはていうど、ありゃ、中央自動車が邪魔して奥羽山脈が見えねのが残念だずねぇ」
勝手なことを呟きながら、乾いた道を軽やかに歩く。

「冬から生気ば吸い取らっだんだべぇ」
カラスウリはカラスも近づかず、茶色に萎む。

「山形はこだい雪残てっげんと誰もたまげね」
「山梨の人はどだいびっくりしたんだがねぇ」
山形人は雪にたまげねげんと、雪かきはさすがにうんざりする。

「雪ぁ、溶けで茶色ぐなてきたどれはぁ」
青空を恨めしげに眺めながら、雪は白から茶色へくすんでいく。

キラキラ輝いて綺麗なので、ツララの真下にきて見上げる。
落ちてくる滴を口で受け止めようか。
そんなことは絶対にやってはいけない。ツララはいつ落ちようかと、おだぐば狙ってる。

日当たりの良い通りは、雪解け水が路面を濡らしている。
そろそろ冬の分厚い壁にヒビが入り始める頃かもしれないなと、気も軽くなってくる。

「くたびっだがぁ?」
「ゼイゼイ〜、一働きして休んでだどごよぅ」
スノーダンプは太陽に背中を炙られながら、肩で息をついている。

「なえだず、こだい天気良いのに情けない顔してぇ」
「ほだごどやねで、人生が刻まれた顔てゆてけろ」
防火水そうの文字は涙目で訴える。

雪原に、ハウスの骨組みがのんびりぬだばる、快晴の津金沢。

微かな囁きが聞こえる。
除雪された道路脇の雪塊の中からだ。
「春になる前に、オレの体は粉々だぁ・・・」

津金沢の集落を眺めるために、ちょっとした丘に登る。
葉山は真っ白で田んぼも真っ白。
でも、大気は確実に春のものへと変わってきていると思いたい。

「いやぁ、みごとな樹氷だずねぇ」
「んねず。除雪車が造った人造樹氷だず」
「それも違うず。春に怯えるただの雪の塊だず」

雪がほどんど降らない所に住んでいるアマチュアカメラマンは、
雪原のこういった光景が珍しくて、よくカメラに納めるようだ。
山形人に言わせれば、こんな光景には無感動。
「あれ?真ん中さ一本生えっだのは波平の髪の毛が?」

曇り空ではのっぺり見えるトタン板も、このときばかりはうねうねと立体感を出し、
樹木の影も浮かれた様子で体をくねらす。

「太陽ずぁ、ほんてんありがたい」
山形人は骨身に染みてそれが分かっている。

「まだ芽は膨らまねがなぁ」
人々がソチオリンピックに熱中している間にも、木の芽は地道に芽を膨らませていた。

どこかから吹っ飛んできた杉っ葉も、
雪が溶ければ地面へ還る。

津金沢といえば大杉。
こんな雪の中だけれど、市民として一度は見ておくかと鳥居をくぐる。

行く手を阻むのは雪ではなく、あちこちに散らばる倒木たち。
雪のせいで倒れたのか、無残な姿をさらし呻いている。

狛犬が守ってくれたか、大杉は倒れずに仁王立ち。

「たまに大杉ば見に人は来るんだが?」
「少しばかり雪の中さ足跡あっけべ」
柄杓は答えるのも面倒だと、こちらを見ずに返事する。

「うっ、鼻ムズムズしてきた」
折れて地面に散らばったザンバラ髪の杉の木が、覆い被さろうと近寄ってくる。

大杉に近づくと大きすぎてカメラに納めるのは無理。
仕方なく一部を撮ったら、なんだか瘤が動物の顔。

倒れた杉の木を跨いだり、くぐったりしながら麓へ降りてくる。
最上が巨木の聖地と思っていたが、山形市にもこんな巨木があることを誇りに思いたい。

やがてあの毛細血管のような枝も、芽が膨らみ葉が生い茂ってくれるだろう。
枝の隙間を吹き抜ける風が、心持ち柔らかくなってきた二月下旬。

「なんだてちっちゃくて情けないツララだずねぇ」
「春近くて、おっきぐ育つ時間なのないまぁ」
数秒おきにポタポタと滴が垂れる音は、春へのカウントダウンに聞こえた。
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