◆[山形市]宮町 寒気の底で(2014平成26年2月8日撮影)

赤い傘が雪の中を縫うように進み、黄色い旗はただ風雪に翻弄されながら耐えている。

「心のなまり具合?」
「んねな、雪かぶてでよっくど読まんねぇ」

「虫から食れるし、雪はかぶるしよぅ」
「ほだごどゆうなぁ。虫も寄ってきてけるし、雪も寄り添ってけるして思わんなねのっだず」
三小の花壇に向かって分かったようなことをつぶやく。

三小の並木が赤いテープで結ばれている。
きっと樹木と樹木の絆を強めるための儀式みたいなもんなんだろうと、
大きな蔵は雪の中で見つめている。

「みんなもっと近づげぇ」
「んだんだ、体ばくっつけ合うど少しは暖かいがら」
雪の中、窓辺の袋たちは、お互いの体をこすりあっている。

「早ぐ滑っだい〜」
「ほだごどゆたて、こだい雪降ってきたじゃあ」
雪を避けながら子供の声が、ようやく耳元に届いてくる。

意に反して雪を細巻きのように包み込む葉っぱたち。

「おもしゃ〜い!」
誰もいない三小のグランドに、歓声がこだまする。

「よいしょっ、よいしょっ、もう一回」
何度滑っても飽きるという言葉がでてこない雪の上。

「一緒に滑っべ、ありゃ先に行ぐのがぁ」
「勝手に滑り落ぢるんだも〜」
歓声と白く吐く息が粉雪に混じり合う。

何年前からここに立っているのだろう。
「もう足が棒になてんのんね?」
つまらないことを聞くなと言わんばかりに、門柱は空を見上げる。

「砂糖なんぼ?」
「んだがら私はスプーンんねんだず」
葉っぱは雪のために、しばらくスプーンを演じることにした。

「かなり降ってきたなぁ、なんだがやんだぐなたじゃあ」
ちょっと神社で雨宿りならぬ雪宿りをしていたが、雪は一向に止みそうにない。

カメラが濡れないようにハンカチを被せながら、「雪の降る町を」口ずさむ。

山形五堰の水は黒々と、そしてキンキンに冷たくなって流れてゆく。

マンホールの蓋は必死になって雪を溶かす。
しかし、雪に埋もれるのも時間の問題だ。

「ウエルカムて陽気なふりしてっげんと、ほんとは辛いんだべ?」
「んだのよ、鼻の上まで雪かぶて目の前も見えねんだもはぁ」
車道の車は知らんぷりして、雪を蹴散らして走り去る。

「雪なのありがだぐないずねぇ」
「何ゆてんの、オマエ雪だるまだべ」
雪だるまのくせして寒がってどうする。

神明神社のしめ縄が雪の中に浮かび上がる。

「オマエだ忘れ去らっだのがぁ」
「んだぁ、節分終わっど潮が引ぐようにみんな興味ば失うんだも」
忘れ去られた豆は間もなく雪に埋もれて見えなくなる。

「オラだの出番だぁ!」
「無理すんな、箒は落ち葉ば掃いでっどいいんだ」
「んだて、寒くて動いでいねどいらんねんだずぅ」
箒は納得いかず空を見上げる。

「ほんてん雪ずぁ、邪魔だもねぇ。たまには東京さでも降ってけっどいいのよ」
誰が念じたのか、確かに東京は雪に大慌て。

真夏の勢いはすっかりなりを潜め、黒々とうずくまる。
たまに鳴り出す踏切の音を聞きなから雪と戯れるしかない。

「何ぃ?東京さ雪降ってニュースになたぁ?」
「んだら、山形は近年になく雪少ないて号外出さんねなっだな」
雪かきの手を休めずに面白いことをいう。

枯れ草は電信柱の影に隠れていたのに、雪は見逃さず頭にふんわりと降り積もる。

「あど何分で電車来っべな」
「ほだなごどより、春なたらどいにして咲くが考えらんなねべず」
道ばたの枯れ草は、枯れた振りして静かに春を準備する。

「ホースは絡みつぐし、雪は積もるしで重だくてしょうがない」
元栓を閉められた蛇口は、口をカラカラにして愚痴を言う。

「どご見っだ?」
「オマエの頭」
「オマエはどご見っだ?」
「オマエの頭の雪」
二匹は退屈で会話も湿りがち。

「いつ止むんだべね」
「いつだべね」
「・・・」
タイヤの会話は途切れがち。

「昔はバスがチェーンの音ばジャラジャラてさせっど冬だなぁて思うっけず」
そういえばこの頃、チェーンを巻いて走る車を見なくなったのは気のせいか。

黒い服装を背景にして浮かび上がる粉雪たち。
TOP