◆[山形市]七日町 梅雨明けて浮き立つ街(2013平成25年8月4日撮影)

「まぶしいごどー、こいな光ば待ってだっけのうよぅ」
暑いのは嫌だが、夏が来ないのはもっと嫌だ。ようやく梅雨が明け、ジメジメした街がカラッと輝く。

「こだんどごさ来て、虫しぇめが?」
街の真ん中で虫しぇめ。
しかも虫網は父が持ち後ろをついていく。

ボテッとした体で「なめんなよ〜」と強がるソフトクリームは、
早く舐めてもらいたくてウズウズしている。

空に突き刺すビルを伝って、ギラギラと日差しが降り注ぐ。

花笠を迎えるように晴れ渡った空。
市民は七日町通りに繰り出して、花笠サマーフェスティバルとようやく訪れた夏を堪能する。

「壁さえあれば、オラだはなんぼでも伸びる」
「オレは壁さぶつかっど、途端にしゅんとなる」
蔦と人間では、壁に対する対応力が違いすぎる。

隆盛を極めた「旭銀座」が、ダルマやトロフィーに混じり合い、ガラスに映り込む。

子供の頃ワクワクして歩いたシネマ通り。
行きはワクワク、帰りは映画の余韻に浸る山形の哲学の道だった。

「誰が歌ていがねがぁ!」
「誰も歩いでいねどれ」
「誰も歩いでいねがら、声ば張り上げるいんだべず」
むなしさを押し隠して、サル君はマイクを振りかざす。

昭和から続く街並み。
この街並みも、これからどれだけ変わっていくのだろうか。

もしかしたら、このビルも見納めかもしれない。
ある方のフェイスブックで解体作業が始まったとの書き込みを見て、矢も楯もたまらず撮りに来た。
映画はもちろん、隣のビルではボーリングもしたし、生まれて初めてアーチェリーをしたのもここだった。

街はいつの間にか表情を変えていく。
変わらないのは空を流れる雲だけか。
この頃は雲も豹変してゲリラ豪雨を降らせるけれど。

「遮る物もないし、パンクしそうだはぁ」
黒いタイヤは熱を帯びパンパンに膨らむ。
白い日傘が涼しげに通り過ぎてゆく。

「やっとジメジメもいねぐなたね」
「カビ生えっかどもてハラハラしったけぇ」
路地裏に薄まった湿気が心地よい風となって吹き抜ける。

日に熱せられた細道の向こうにナナビーンズが見える。
あのビル周辺だけが七日町じゃない。

「やっと梅雨は明けだげんと、これからはUVが威力ば増すがらねぇ」
昭和には日焼けが礼賛され、平成には美白が凌駕した。

堰周りの草むらの向こうを覗いてみる。
「お、いだな」
いつ訪れても、ジーッと御殿堰の水面を眺めている地蔵たち。

「こだな暑いどぎに就活だべが」
黒いスーツだがら就活だとは決めつけられないがと思う刹那に、長い下り坂を去って行く。

「オマエだは土嚢?」
「他に何に見えるや」
木漏れ日の下で、疲れた表情が集って泥のように眠りこける。

「なんぼ暑いったて、仕事だがらぁ」
外仕事の職人さんは休日も返上で大変だ。
「暑いど咲くのが仕事だがらぁ」
ノウゼンカズラは梅雨明けとともに、生気を蘇らせて輝きだす。

「こごばずっと登て行って、右折すっど山大っだなね」
チラリと見える山並みへ、笹谷街道が細く伸びている。

巨木は太陽へ挑むようにズシッと立ち上がり背伸びする。
根元の看板を見ると、「ヒマラヤシーダー」という立派な名前の保存樹だった。

「ジワジワ湧いできた」
「あたしだば見で何が湧いできたのや?」
「決まてっべず。ヨンダレよぅ」
ビリビリ干された梅干しを見て、口中にジワッと唾液がにじみでる。

「オラだもどっこい生きているぅ」
雑草は盆前に刈られる運命。でもすぐに生えてくるしつこさには呆れる他ない。

「こだんどさ梅雨の名残が集まてだ」
水たまりは白い雲と家並みや車・犬の散歩の人を映しだし、消え去る時を待っている。

「やきそば・玉こんにゃく・どんどんやきぃ」
洒落たポスターにそそる言葉が添えられる。

光明寺の敷地内へこっそりと足を滑らす。
敷地の角には立派な桜の木。
見上げれば蝉の抜け殻が鈴なりだった。

注意:木の枝にいっぱい付いているのは蝉の抜け殻ではありません。
あくまでも葉っぱが付いているのです。そんな注意書きが必要なほど蝉の抜け殻が群がっていた。

「暑すぎてぐねぐねなったのがぁ?ほだな訳ないずねぇ」
暑さ寒さで敷地の境目がグニャグニャ変わったらたまらない。

「ありゃ、まだ見つけだ。」
再び唾液がにじみ出てくる。
真夏のこんな風情も七日町の裏通りにはたくさん残っている。

「道路工事中で道は悪れし、土とコンクリしかないし、暑い日はやんだぐなる」
本町や七日町の裏通りにも、道路拡幅のメスが入り始めた。

「うちさサバ缶あっけがなぁ。納豆あっからいがんべ」
真昼時、ひっぱりうどんを昼食にと考えながら日傘が通り過ぎる。

突然携帯がウイーンウイーンと鳴り出した。
「ありゃりゃりゃ地震だこりゃ!」
道行く人々はみんな携帯に見入ったり、周りをきょろきょろ見渡したりしている。
オレは何故か道路脇の蜘蛛の巣を見入ってしまった。
人間パニックになると自分の行動の予測が付かなくなるらしい。

さっきの揺れが、道路に人々を溢れさせたわけじゃない。
冷やしラーメン屋さんへの行列は途切れることを知らず、しかも花笠サマーフェスティバルの真っ最中。

暑さに首を項垂れているわけじゃない。
ユリは重い頭を垂れながら、いつもより多い人々に酔っている。

コンクリートで固められた街中も、一角にちょっと植物が置かれているだけで涼やかさに包まれる。

「花笠見ぃ来いよ〜、飛び入り参加も大歓迎だがらなぁ〜」
蔵王権現もどきは、七日町通りで無理して必死の形相を造っているようだ。

梅雨明けとともに繰り出してきた人々は、花笠を前に浮き立つ街を闊歩する。

ビルの隙間を覗き込んでいるのは、青い空と白い雲。

カット照りつける太陽を避けて、逃げるようにビルの谷間に入り込む。
梅雨の残り香とビルの排気熱が暗がりで混じり合う。

「ひゃー、青空ば久しぶりに見だぁ。梅雨前線よさらばだぁ。」
人間はやっぱり天気と連動しているんだなぁと空を見上げ実感する。

「いだずらばりしてっど、水懸げでけっからな」
「ほだごどゆたて、おもしゃいごどはやめらんねものぉ」
御殿堰から引いた水は、子供に活発にし、人々に潤いを与える。

「近頃の若い者がうらやましいず。オラ仕事だがら長袖長ズボンだものぅ」
おじさんの気持ちは痛いほど分かる。
「オレは半袖半ズボンで家さいっげんと、蚊も寄ってこねじぇ」

「電線さ雀止まったみだいだどれ」
やんだぐなった人々は、縁石で鈴なりになる真夏到来。
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