◆[山形市]花楯・印役五 蓮と立葵の季節(2013平成25年7月13日撮影)

「また今年も咲いでけっだなぁ」
すぐ脇の車列がみんな蓮に尻を向けている図が悲しいけれど、
町の中だから共存して譲り合うしかないんだべな。

「ほだいぎっつぐビニールば被って、窒息すねが?」
言葉は丁寧。でも板パンコからは強い怒りが発散され、
ビニールが曇っている

「おう、蓮ば見に来たのがぁ。丁度やんばいだべぇ」
一斗缶は力なさげにつぶやく。
さび付いて置きっぱなしにされても、
蓮を愛でる気持ちはさび付いていないようだ。

これだけの蓮が四中の脇を占めている。
特異な光景なのに、四中の生徒は得意にならない?興味ない?あっそう・・・。

蓮の茂みの暗がりの中で、静かに役目を終えて来年に備える。

蓮の手のひらの上で踊らされる、ガラス玉のような水滴。

葉っぱの下では、いろんな生物が密かに蠢いている。

「住宅地の真ん中だげんともよぅ、べろっと広がるスペースだげはあんのっだな」
目の端に映る宅地を気にかける様子もなく、花びらは曇天を見上げて大きく花びらを広げる。

「今日の人々は歩らぐのも大人しいずねぇ」
電信柱の影で自転車のハンドルが人々を観察してる。

「あだい湿気っだら、取り出すのも面倒くさいべなぁ」
立葵はポストの紙切れが湿気でぐったりしているのが、
気になってしょうがない。

二口橋から轟音が流れ込んでくる。
湿度の高い轟音は、立葵の花びらに執拗にまとわりつく。

「もっと表さ出で来たらいいべした」
立葵がアジサイに声を掛ける。
「オラだは観光用に咲いっだ訳んねがら、こごでいいのよ」
アジサイはひっそりと滴と戯れる。

「立葵は脳天気にあっちこっちで咲いでっげんとよぅ、オラだだて咲き時なんだじぇ」
立葵だけが目立つのを不服に思いながら、滴とひっついた虫を振り払おうともがいているムクゲ。

「こりゃ、看板の前で咲ぐな」
電信柱の印役町五丁目は、目の前に突然ひょろっと咲き始めた立葵が目障りでしょうがない。

「昼はところてんか刺身こんにゃくでいいはぁ」
「俺はつけ麺、ソーメン、冷やしラーメン」
がっつり肉食系だろうが、草食系だろうが、昼時が近づけばイケ麺になる蒸し暑い梅雨時。

二口橋の下に自転車を待たせ、河川敷でサッカーの練習を始めるらしい若者。
黒い影になった自転車は橋桁と数時間にらめっこか。

「ほんの数日時期が遅いっけぇ」
この間、車の中から見たときは、河川敷沿いに周りを圧倒する勢いの立葵ロードが続いていたんだ。

「ほだい鼻つんつんて蠢かして、なにがあったのが?」
「んだて、焼き鳥の匂いがこっちまで流っでくるんだも」
近頃の草木は肉食系に変化しつつある?

「うへーっ、喉渇ぐずねぇ」
「サルスベリよ、オマエもか」
目線は一緒にコカコーラの自販機に向いていた。

「オマエだは下品なんだず。もっと上品な咲き方でぎねのが?」
無抵抗の立葵に日頃の不満を意味も無くぶつける。
花をごしゃいでいる親父を見て、通り過ぎる自転車の目には嘲笑とともに哀れみも含んでいた。

「トンボの季節がぁ」
「どさトンボなのいだ?」
「地面ば這ってだどれ」
サッカー部員たちは黙々と、ちょっとだれ気味に地面をトンボで掃いている。

「そろそろ出番だがぁ?」
立葵が弱り始めた同じ場所からコスモスが顔を出し始めた。
まもなく立葵ロードはコスモスロードに取って代わる。

「ビーーーーーンッ」
立葵は観客となり、郵便配達のバイクを目で追っている。

「咲いで笑顔振りまいでんのも、くたびっだがぁ?」
滴をプツプツ付けながら、曇天を見つめて放心の体(てい)。

夏祭りのお知らせ看板を撮ろうとした。
「すみませ〜ん」
こっちが勝手に写真撮ってるだけで、女の子はなんも悪くない。
それなのに明るく謝って目の前を颯爽と走り去る。格好いい!

「オマエの役目はなんだ?」
「夏祭りのPRすっごどだっす」
この季節だけは本来のミラーの役目は二の次だ。

花の季節に、夏祭りのお知らせが花を添える印役町。

小雨がぱらついてきた。
それでもポスターは踏ん張っている。
この地区の夏祭りは密かに有名だもんなー。

「会話も無いのが?」
藤棚の下で、ベンチはお互いを無視するように間隔を開ける。

学校帰りの四中生が寄り道してる。
公園に寄り道するのは中学生にとって至福のひととき。
学校の事を家に持ち込まず、家へ帰るための心の準備をする場所なんだ。

「濡っでで気持ち悪れべぇ」
「ほだごどな〜いぃ。この感触が好ぎなのよぅ」
濡れた地面は心を癒やす。

「つっぱりどひっぱりのどっちいい?」
「どっちも同じんねのが?」
「んだら納豆はサンコーど、くめ納豆ど、おかめ納豆のどいずいい?鳩納豆もあっげんと・・・」
そんな会話が聞こえそうなゆるやかなお昼時。
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