◆[山形市]小荷駄町・南原町 陽光こぼれすぎ(2013平成25年5月17日撮影)

車輪の隙間を、初夏の風が吹き抜ける。

「まぶすくてはぁ、帽子被らねでいらんねもなぁ」
なぜ人間は光を遮るのに躍起なのか、若葉たちにはわからない。

「春もそろそろ終わりだべはぁ」
花びらは暑気にあてられ覇気を失い、若葉は力を蓄えて真夏に備える。

ピクリとも動かない水面。
その水面の上で、若葉たちは風に触れて初夏を満喫している。

「こだんどごからも天気いいど、朝日連峰がみえるんだずねぇ」
大気が澄み、心まで澄み渡る。

すぐそこまで迫っている千歳山や奥羽の山並み。
すっかり生気を取り戻し、山形の街へ新鮮な空気を吹き付ける。

子安観音の裏手へ回ってみる。
「おだぐは子安んねくて、肥やすだなぁ」
白い房は苦笑気味に、人のみてくれをストレートに表現する。

オダマキは快晴が嬉しくて、街角でさえずっている。
「おだまり!てごしゃいだて無理っだなねぇ」
こだい天気がいいんだもの。

「なんだて賑やかだごどぉ」
誰も通りを歩いていないのをいいことに、遠くの千歳山へアピールするように咲き乱れる。

「なしてオレが捨てられる?」
今から夏だというのに扇風機は腑に落ちない。
「なんぼ使えでも古い物は捨てられんのよ。
いわゆるリストラていうやづっだな」

「ガワガワになて気持ち悪れぇ」
フェンスに干された洗濯物は、陽光を浴びながら愚痴っている。
「洗濯で干さっでいるんだがらいいべした。仕事で干されっど辛いよぅ」
オレは洗濯物に心の底から語りかける。

パキッとした影が、小路に模様を敷き詰めている。

「みだぐない石垣ば隠すためにおがたのが?」
「ほだなつもりはないげんと、温かぐなっど、なんだがモリモリと膨らんでくんのよう」
芝桜は沸騰した鍋から溢れる泡のように街角へこぼれ落ちる。

「おらだは日陰でいんだぁ」
「ほだなごどやねで頑張れぇ」
頑張れといってみたものの、何を頑張ればいいのか言った自分がわからない。

「おー空よ、大気よ、おらほさ生命を与えてくれてありがどさま〜」
イチジクの葉は手のひらを太陽にかざし、感謝の念をそらへ送り続ける。

サワサワと涼やかな葉擦れの音がそこかしこに溢れている。
塀に張りついた影もその音に呼応して旋律を奏でる。

日陰に入って、葉陰から千歳山をみる。
「この間まで、あだい寒いっけのになぁ」
季節は着実に山形へ夏を運んでいる。

「菜の花のおひたしも旨いずねぇ」
「植物ばみっど、食欲が湧いでくんのは山形人の習性っだずねぇ」
ヒョウなどの雑草でも喜んで食べる山形人の食生活は豊かなのか、貧しいのか。

熊野神社の杜が見えてくる。
乾いたアスファルトを踏む足音に、少しばかり元気が戻ってくる。

彫られた文字がやけにくっきり。
それだけ日差しが強烈なんだろう。
早いところ熊野神社の杜へ逃げ込むとするか。

木立の隙間から地面へ到達する光は少ない。
そのわずかな光を体へ取り込んで、小さな若葉は将来の自分の姿を夢見ている。

塀の前でこごまっている枝葉。
「こだな薄暗い場所でも、確実に季節は動いでいんのっだずねぇ」
変に感心し、薄闇に浮かぶ葉っぱをまぶしげに見つめる。

「若いっていうのはまぶしいもんだずねぇ」
「んだぁ、おらだだて若いどぎはまぶしいんだっけじぇ」
暗がりの中で、お地蔵さんはひそひそと語り合う。

授業中なのか、六中の校舎からはなんの音も聞こえてこない。
熊野神社の木立は静かに五月の陽光を受け止めている。

「オマエだ、床屋さ行ってこいず」
フェンス越しに箒へ声を掛ける。
「こばくさいごどゆてんな。オラだが床屋さいったら仕事がでぎねぐなっべな」
どうもぼさぼさの頭が気になって、つい声を掛けた自分が恥ずかしい。

青空の中へオレンジ色がくっきりと割り込んでいる。
時たま通る車に煽られながら。

「暑っぢぃ。なんとがしてけろぉ」
荷台の箒やチリトリやロープは、かなりだらけている。
「ほだい暑いごんたら、みんな離っだらいいべず」
暑くても離れようとしないのは、お互いが熱い気持ちで結ばれているから?

「こごは昔、山商なんだっけじぇ」
「んだぁ、懐がしいったらぁ」
黒い日傘の中から言葉が漏れ出してくる。

「アイスが溶けで、手さたらずいでくるほれ」
初夏の太陽は若葉の葉脈を透かし、アイスをみるみる溶かす。
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