◆[山形市]初市 氷点下でも足が向く(2013平成25年1月10日撮影)

「早ぐ初市さあべぇ」
「団子木持って、行ぐ気満々だどれぇ」
「んねじぇえ。んでも、ちぇっと寒ぐない?この格好だし・・・」
市民会館の乙女たちは、年一回の市に気もそぞろ。

つららの暖簾の向こうを、渋滞のためかゆっくり進む山交バス。

「しびったれだもなぁ、ちょびっとしか伸びでいねどれ」
小さなつららたちは下を覗き込み、ちょっとでも温かくなると落ちてしまうと怯えている。

「文翔館まで歩いでいんかぁ」
「ほだいあっちまで歩いだら、何もかも買ってしまうべず」
数百の露店が並ぶ通りは、誘惑に満ちている。

「かえずよ、かえず、白ひげが欲しいのよぅ」
がっちり握って離さないぞと、指に力を込める。

「まんず、みな騒がしいもなぁ。こいなどぎはゆっくりお茶でも飲んで、気持ちば落ち着がせらんなねべず」
おじさんは滑りやすい通路に座り、何を買おうか頭はめまぐるしく計算している。

「なんだがしゃねげんと、人がいっぱい集まてくっど興奮すんのよねぇ」
正月明け初の市に、山形人は今年の初興奮を味わう。

「どんどん焼きんねくてチジミば食だいのぉ」
「寒いがらこの際なんだていいっだべ」

芳しい味噌の香りが辺りにたちこめる。
いつのまにか人々が誘われるように集まってくる。

ちらほら雪が舞ってきた。
それでも地面に積もっていないのだから、今年は穏やかな日和というべきかも。

「かえずぁ何だぁ?」
山形に柑橘系は珍しい。おじさんはマスクと帽子の隙間からじっと見入っている。

ちょっと通りから外れる。
初市の喧噪が昭和の街並みに流れ込んでくる。

昭和の街並みはシャッターを閉じ、寒気に混じった初市の喧噪を静かに受け止める。

「なんぼ寒いったて仕事だがら・・・」
人々は背中を丸め、小走りに初市へ向かう。
交通整理のおじさんは、寒さを表情に出さず、責任感だけを前面に出している。

「まんずいがったぁ、団子木ばゲットしてぇ」
大きな束をブラブラさせ、赤い傘をゆらゆらさせて家路を急ぐ。

「信号青だ、急げぇ」
「走んなぁ、危ないべなぁ」
気持ちだけは走りながら、早足で初市へ向かう。

薄日が屋根の間から顔を出す。
空に張り巡らせた桜の細枝は、寒気の中でピリピリと凍えている。

天気は変わりやすく、遠くが霞むほどに雪が舞ってきた。
それでも今年は少ない方。積雪10センチくらいじゃ山形人はなんとも思わない。

「なんだて凄い渋滞だずねぇ」
「これも初市効果っだなぁ」
「効果っていう言い方変だべ」
「いっだべず、いつもの日曜だごんたら深閑としてるんだがらぁ」
自転車たちは勝手気ままに雪の上で語り合う。

「おお、やっとスコップが主役に躍り出だなぁ」
「傘は大人しぐしてろ、オレの出番だがら」
スコップは稼ぎ時を迎え、傘に向かって胸を張る。

「降ってきたもねはぁ」
文翔館が霞んでいるのは、温かい食べ物の湯気のせいか、雪のせいなのか。

「紅梅だどぉ、いいずねぇ」
「こだな寒いどぎ蕾ば見っど、和むずねぇ」
赤い蕾に舞い降りる雪がそっとまとわりつく。

「かえずけでけらっしゃい」
「ありがどさまぁ」
団子木の隙間に、山形弁が飛び交う。

「いちにぃさん!」
「ほだんどごで何数えっだのや」
「この木が何歳だが年輪ば数えっだの」
少なくともこの子よりは年上だろう。

「ぎっつぐ、ゆすばがねどよ」
「んだぁ、途中でほどげだら大変だも」
お買い上げいただいた杵を結ぶ手に力がこもる。

湯気はオレンジシートに隠れ、
サツマイモはアルミ箔に包まれてほくほくになっている。
露店の方は暖をとるのも大変だ。

ストーブに乗せた紙コップのコーヒーが湯気を立てている。
でも30センチも離れれば、そこはもう氷点下の世界。

背負った薪の背後がなにやら忙しない。
「なんだがしゃねげんと、オレは本ば読むだげ・・・うぅ、雪かぶって読まんね」
「初市のどぎくらい勉強やめだら?」
「んだなぁ、雪ば払ってちぇっと行ってみっか」
しばらく待ったが、やはり動こうとはしなかった。

一小脇の枯れ草が雪の隙間から顔を出し、首を伸ばして初市の音と匂いを確かめる。

「どーれ、一通り見だがら帰っべはぁ」
一小脇の小径を、雪を踏みしめながら、初市を反芻しながら。
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